こう、風の強い日は

こう、風の強い日は、君のことを思い出す。

「また来週ね」と言うと、君ははにかみながらお辞儀をした。

 

君は礼儀正しくて、皆に可愛がられていたね。

「どんな仕事をしたい?」「お母さんは、元気?」

そんな取り留めのない話を君とするのが、私は好きだったよ。

 

守秘義務のある仕事だから、事例提供するのに本人の同意が必要なんだ。

でも、どの方のことも大切に思う故に、誰にも気軽に頼めないんだ。

 

私がそんな話をした時も、君は私に、

「自分のことで良ければ。役に立てるのなら」

と顔を真っ赤にして言ってくれたね。

 

あの頃、私は若過ぎて、皆を支えているつもりになっていた。

しかし、今思うと皆にどれほど支えられていたのか。

思い出すだけで、今度は私の顔が赤くなってしまうよ。

 

君の明るい未来を描いては、アルバイト求人情報を一緒に眺めて。

私と同じぐらい手先が不器用な君の、愛らしい作品を交換して。

 

もう少し、こんな時間が続くのかなと思っていた。

「また来週ね」が最後の言葉になるなんて、思いもしなかった。

 

あれは、事故だ。

 

どんなに怖い思いをしたのだろう。

責任感の強い君のことだから、体も、心も、さぞかし苦しかっただろう。

 

風が強かった。

空気が冷たくて、鼻がつんとした。

 

君はいなくて、私はまだ生きている。

未だにそれが、信じられないと思う時があるよ。